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名古屋高等裁判所 昭和58年(ネ)142号 判決

控訴人

倉知治

被控訴人

孔順智

右訴訟代理人

鶴見恒夫

樋口明

被控訴人

名北産業株式会社

右代表者

朽本正明

右訴訟代理人

早川淳

被控訴人

株式会社大垣共立銀行

右代表者

土屋斉

右訴訟代理人

片山欽司

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2(一)  被控訴人孔順智は控訴人に対し、別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)につき有する名古屋法務局江南出張所昭和五四年一月三一日受付第九五四号所有権移転登記(原因昭和五三年五月二六日競落)の抹消登記手続をせよ。

(二)  被控訴人名北産業株式会社は控訴人に対し、本件土地につき有する前同出張所昭和五四年三月二二日受付第二九四七号所有権移転登記(原因同月二〇日売買)の抹消登記手続をせよ。

(三)  被控訴人株式会社大垣共立銀行は控訴人に対し、本件土地につき有する前同出張所昭和五四年四月九日受付第三七三三号根抵当権設定登記(原因同年三月二〇日設定契約)の抹消登記手続をせよ。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人孔順智及び同株式会社大垣共立銀行

主文同旨

三  被控訴人名北産業株式会社(答弁書擬制陳述)

1  本件控訴を却下する。

2  訴訟費用は被控訴人の負担とする。

第二  当事者双方の事実上の主張並びに証拠関係は、次に付加、訂正するほかは、原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

一  控訴人の主張

1  控訴人は、名古屋地方裁判所一宮支部昭和四七年(フ)第五号(申立人井戸善一郎、安藤亀一、浜島嘉澄)及び同庁昭和四七年(フ)第一一号(申立人近藤章)事件につき、昭和四八年四月一八日右裁判所において破産宣告を受けた。

2  しかしながら、井戸善一郎の申立債権はすべて架空のものであり虚偽である。浜島嘉澄、安藤亀一の破産申立は不存在で、井戸善一郎が勝手にしたものである。近藤章は破産宣告決定に同意している。右の如く右事件は、破産申立そのものが不適法であるから、それに基づく破産宣告も無効である。

3  控訴人はまた、破産宣告後一〇年を経過したので破産法三六六条ノ二一、一項四号により昭和五八年四月一八日の経過をもつて当然復権した。

4  よつて控訴人は、当事者適格を有し、本件訴訟を追行することができる。

5  そして、架空債権による詐欺的手段で得た破産宣告決定によつて破産管財人天野正義が、競売続行申請をし、競売が行われたものであるから、競落は無効であり、被控訴人らは所有権及び根抵当権を取得していない。また競売申立人の債権も不存在であり、被控訴人名北産業株式会社は右事情を承知のうえで本件土地を買つたものである。

二  被控訴人孔順智の主張

控訴人が昭和四八年四月一八日破産宣告を受けた事実は認める。原判決三枚目裏四行目中「昭和四八年」とあるを「昭和四七年」に、同五行目中「同年」とあるを「昭和四八年」に改める。

三  証拠〈省略〉

理由

一当裁判所も控訴人の本訴請求は不適法であつて却下すべきものと判断するところ、その理由は次に付加するほかは原判決理由記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

二控訴人は、本件控訴人に対する破産決定は無効である旨主張するか、破産宣告は裁判所による決定の形式でなされるものであり、法に定める不服申立によつて取消されない限り宣告と同時に効果を生ずるものであつて、当然無効の観念を入れる余地のないものである。従つて、控訴人に対する本件破産決定が無効である旨の控訴人の主張は失当である。

控訴人は次に、復権の主張をするところ、破産法三六六条ノ二一、一項四号によると、破産宣告後、詐欺破産の罪につき有罪の確定判決を受けることなく、一〇年を経過したときは、裁判によらずに当然復権することが明らかである。しかしながら、復権は破産者が受けている公私の資格についての制限を消滅せしめ、法的地位を回復せしめることであり、破産手続の終了を意味するものではない。従つて破産宣告後一〇年を経過するもなお破産手続が終了しないときは、破産者は復権の有無に拘わらず、依然として破産財団に属する財産について管理処分権を喪失したままであり、破産手続終了によつてのみこれを回復し得るものである。すると控訴人の右主張は理由がない。

三以上によると、控訴人は本訴請求につき当事者適格を欠くことが明らかであるから、本件訴を却下した原判決は相当である。被控訴人名北産業株式会社は、本件控訴の却下を求めているが、控訴そのものは不適法とはいえない。よつて、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(山田義光 井上孝一 喜多村治雄)

物件目録〈省略〉

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